突然の退去勧告・家賃値上げに戸惑ったら──いま賃貸マンションで本当に起きていることと、知っておくべき現実
「突然、退去を求められた」
「更新のタイミングで、家賃を大幅に上げると言われた」
ここ最近、こうした相談が確実に増えています。
これまで長く住み続けてきた部屋。
特に問題も起こしていない。
それなのに、ある日いきなり届く通知。
不安になるのは、当然です。
ただ、この問題を
「ひどいオーナーが増えた」
「借主が一方的に守られるべき」
そんな単純な構図で片付けてしまうと、
本当に大切なことが見えなくなります。
この記事では、
借主・オーナーどちらかを責めるのではなく、
いま賃貸の現場で何が起きているのか
そして、感情的になる前に知っておくべき現実を整理していきます。
目次
いま賃貸マンションで何が起きているのか

「急に出ていってほしいと言われたんですが…」
最近、こんな相談が立て続けに入るようになりました。
- 所有者が変わったので出ていってほしい
- 更新のタイミングで、いきなり大幅な賃料アップを提示された
- 応じられないと伝えたところ、「それなら退去を検討してほしい」と言われた
- これまで何年も問題なく住んでいたのに、突然態度が変わった
相談者の多くは、こう言います。
「こんな一方的な通知が来たんですけど、
これって従わなくちゃいけないんですよね?」
今まで長い間家賃は据え置かれていました。
家賃が上がるっていう感覚がないのも当然です。
値上げどころか、退去勧告されると、来月から居場所がない。
不安になるのは当然です。
一方で、この問題は「悪いオーナーが増えたから」
という理由なんでしょうか?
それだけで片付けてしまうと、本質を見誤ります。
いま賃貸の現場では、
もっと構造的で、根の深い変化が起きているのです。
なぜ、いま賃貸トラブルが増えているのか
まず冷静に、背景を整理しましょう。
ここ数年で、私たちを取り巻くコスト環境は大きく変わりました。
- 物価の上昇
- 建築費・修繕費の高騰
- 固定資産税・都市計画税の上昇
- 金利上昇によるローン負担の増加
特に分譲マンションを賃貸に出しているケースでは、
- 管理費の値上げ
- 修繕積立金の段階的な増額
が、かなりの確率で起きています。
というよりも、今ほとんどのマンションで起こっている現実です。

ここで重要なのは、
これらはオーナーの意思だけではどうにもならないコスト
だという点です。
つまり、
「家賃を上げたい」のではなく、
「上げざるを得ない状況に追い込まれている」
そういうオーナーが一定数存在しているということも理解しておかなければいけません。
もちろん、
だからといって
「借主に一方的に負担を押し付けていい」
という話ではありません。
ただ、どちらか一方だけを被害者・加害者にする構図では、
この問題は解決しないのではないでしょうか。
かつて「家賃は上がっていくもの」だった時代があった
ここで、少し時間を巻き戻したいと思います。
いまから約30年ほど前。
不動産の世界では、「家賃は上がっていくもの」
という考え方が、ごく当たり前に存在していました。

更新のたびに、
「賃料は更新時に5%増額する」
そんな一文が入った賃貸借契約書も、実際に存在していました。
当時は、
- 数年ごとに、数%ずつ家賃が上がる
- それを前提に、借主も住み続けるかを判断する
- オーナー側も、将来の収益増を見込んで物件を保有する
こうした関係性が、ある意味で成立していた時代だったのです。
実際、当時の建築会社や不動産会社が作成していた
収支シミュレーションを見ても、
- 数年ごとの家賃上昇
- インフレを前提とした収益増
が、最初から織り込まれているケースは珍しくありませんでした。
「家賃は固定されるもの」
ではなく、
「時間とともに少しずつ上がっていくもの」
それが、不動産業界の“共通認識”だった時代が、確かにあったのです。
そして、その前提は静かに崩れていった
しかし、その流れは永遠には続きませんでした。
バブル崩壊以降、
長く続いたデフレの時代。
- 家賃は上げられない
- 上げれば空室になる
- 下げることで入居を維持する
こうした状況が当たり前になり、
「家賃は上がらないもの」
という認識が、徐々に社会全体に定着していきます。
そして気づけば、
- 借主にとっては
→ 家賃はほとんど変わらないもの - オーナーにとっては
→ 上がらない前提で耐えるもの
という、新しい常識が出来上がっていました。
いま起きているのは「価値観の衝突」

現在起きている賃貸トラブルの多くは、
実はこの二つの時代の価値観のズレから生まれています。
- オーナー側
→ 「本来、家賃は見直されるものだ」 - 借主側
→ 「家賃は基本的に据え置かれるものだ」
どちらが間違っている、という話ではありません。
見ている“前提の時代”が違うということなんです。
このズレが、
更新時の値上げや退去を巡るトラブルとして、
いま一気に表面化しているのです。
それでも「何でもあり」ではないのが賃貸借契約
ここで大前提として、知っておいてほしいことがあります。
賃貸借契約は、
オーナーが一方的に有利な契約ではありません。
- 正当な理由のない退去勧告は、原則として認められない
- 家賃の増額も、「相当性」が求められる
つまり、
「気に入らないから出ていってほしい」
「周辺相場が上がったから、倍にする」
こうした主張が、そのまま通る世界ではありません。
ここでよくある誤解があります。
それは、
「言ったもん勝ち」
「強く出た方が勝つ」
という考え方です。
賃貸の世界では、
声の大きさよりも、合理性が重視されます。
そして、その合理性を判断する最終地点が
調停や裁判なのです。
不服がある場合に取り得る「現実的な手段」
家賃の値上げや退去勧告に納得がいかない場合、
感情的に対立してしまう前に、
ぜひ知っておいてほしい制度があります。
それが、供託です。

供託と聞くと、
「なんだか難しそう」
「大ごとになりそう」
と感じるかもしれません。
ですが本質は、とてもシンプルです。
- 「この金額なら妥当だと思う」
- 「払う意思はある」
その賃料を、
直接オーナーではなく、裁判所に預ける。
これは、
- 家賃を踏み倒す行為ではない
- 支払い拒否でもない
むしろ、
「感情ではなく、制度の土俵で話し合いましょう」
という、冷静な意思表示です。
オーナー側にとっても、
- 未払いリスクを抑えられる
- 話し合いを整理できる
という側面があります。
まぁ、オーナーにとっては面倒だなという話にはなるのですが(笑)
実際に「供託」をする場合、何が必要になるのか
ここまで読んで、
「供託という制度があるのは分かったけど、
実際には何をすればいいのか分からない」
そう感じた方も多いと思います。
そこで、あくまで全体像だけ整理しておきます。
※以下は一般的な流れであり、
※個別事情によって異なる点があることは、あらかじめご了承ください。

① まず必要なのは「争点の整理」
いきなり裁判所に行く前に、
最初にやるべきことは、とてもシンプルです。
- いま請求されている家賃はいくらか
- 自分が「妥当だ」と考える家賃はいくらか
- なぜ、その金額が妥当だと考えるのか
ここを数字と言葉で整理します。
感情ではなく、
- 周辺相場
- これまでの経緯
- 建物の状況
などをもとに、
「第三者が見ても理解できる理由」を意識することが重要です。
② 「供託書」の作成で大切なポイント
供託を行う際には、
供託書と呼ばれる書面を作成します。
ここで大事なのは、
難しい法律用語を使うことではありません。
むしろ意識すべきなのは、
- 支払う意思があること
- 一方的な拒否ではないこと
- 話し合いの余地を残していること
が、きちんと伝わる内容になっているかどうか。
供託書は、
「戦うための文章」ではなく
「冷静に状況を説明する文章」
この感覚が、とても重要です。
③ 実際の手続きは、意外と「淡々としている」
裁判所での供託手続きは、
ドラマのようなやり取りがあるわけではありません。
- 必要書類を提出する
- 指示に従って供託金を納める
- 受理されれば手続きは完了
驚かれることも多いですが、
感情的なやり取りは、ほとんどありません。
だからこそ、
「感情でぶつかり合っていた問題を、
一度フラットな場所に置く」
という意味では、
供託は非常に合理的な手段でもあります。
④ 供託をしたからといって「解決」ではない
ここは誤解されやすい点なので、
はっきり書いておきます。
供託は、
- 魔法の解決策ではない
- 勝ち負けを決めるものでもない
あくまで、
「話し合いを制度の土俵に乗せるための一手」
に過ぎません。
その後、
- 協議でまとまるケース
- 調停に進むケース
- 裁判で判断されるケース
さまざまな展開が考えられます。
⑤ だからこそ「最初の判断」が重要になる
供託は、
誰にとっても軽い選択ではありません。
- 時間もかかる
- 精神的な負担もある
- 今後の住み続け方にも影響する
だからこそ、
「本当にそこまでするべきか」
「別の選択肢はないのか」
この判断を、
一人で抱え込まないことが大切です。
供託・裁判所手続き関連リンク(公式)
※以下のリンクは一般的な情報提供を目的としたものであり、
実際の手続きにあたっては専門家への相談をおすすめします。
① 供託制度の概要(法務省)
制度全体の解説ページ(公式)
👉 供託制度の概要(法務省)
※ 供託制度そのものについては法務省が公式ページで概要や注意点を公開しています。供託書の記載例や注意点へのリンクもここから辿れます。
ここでは、供託書の様式や記載例へのリンクも確認できますので、具体的に準備する際にとても役立ちます。
② 供託書の記載例・雛形(法務省)
供託書等の記載例(PDFなど)への公式リンク
👉 供託書等の記載例(法務省)
※実際に使う供託書の見本が公式に公開されています。
「供託書って難しそう……」と思うかもしれませんが、法務省公式サイトには供託書等の記載例がPDFで公開されています(平易なフォーマット例などもあります)。
➡ 書き方のポイントとして、賃料供託の場合の例(※実務書式)もあります。
(※「地代・家賃弁済金銭供託の通知書」という様式が定められています)
③ 供託手続きの実際(法務局・自治体説明)
供託窓口で必要なものや当日手続きの実務例が載っているページ
実際の供託手続きでは、印鑑・賃貸契約書などを持参して供託窓口での申請が基本です。自治体や法務局が説明しているように、事前に準備しておくとスムーズです。
ここで必要な持ち物と流れを確認できます。
- 印鑑や供託金
- 賃貸借契約書
- 供託書(形式例)
などが必要です。
裁判は「万能の正解」ではない
ここで、あえて厳しいことも書いておきます。
裁判や調停は、
必ずしもスッキリ終わるものではありません。
- 時間がかかる
- 双方ともに精神的な負担が大きい
- 勝っても、関係性は元に戻らない
そして何より、
「勝ったのに、疲れ果ててしまった」
ということにもなりかねません。
だからこそ大切なのは、
争うか、折り合うかを見極める視点です。
- その家に、あと何年住みたいのか
- 多少上がっても、住み続ける価値はあるのか
- それとも、別の選択肢を探す方が現実的なのか
これは、
法律の問題であると同時に、
人生設計の問題でもあります。
借主にも、オーナーにも「言い分」がある時代
いまの賃貸トラブルが難しい理由は、
どちらの言い分も、ある程度もっとも
だという点にあります。
- 借主は、生活を守りたい
- オーナーは、赤字を避けたい
だからこそ、
「どちらが正しいか」
ではなく、
「どこに落とし所をつくるか」
という視点が、これまで以上に重要になっています。
そして、この“間”に立てる存在が、
圧倒的に足りていません。
私たちが目指している立ち位置
私たちは、
借主の代理人でも、
オーナーの代弁者でもありません。
どちらの話も聞き、
数字も、生活も、感情も整理したうえで、
「現実的に、いちばん納得感のある選択肢は何か」
を一緒に考える存在でありたいと思っています。
不動産は、
- 契約書だけを見ても答えは出ない
- 法律だけでも割り切れない
必ずその先に、
人の暮らしがあります。
双方にとって一番いい解決方法は何か、そこを提案するのも私たちの仕事なのです。
どちらかに寄るのではなく、
どちらの話も理解したうえで、
現実的な選択肢を提示する。
それが、私たちがこの仕事を続けている理由です。

最後に
もし今、
- 突然の退去勧告に戸惑っている
- 大幅な賃料アップに納得できない
- でも、どう動けばいいか分からない
そんな状況にいるなら、
一人で抱え込まないでください。
争う前に、
感情的になる前に、
一度、状況を整理するだけでも意味があります。
不動産の問題は、
「勝ち負け」ではなく、
「次の一手」をどう選ぶか。
私たちは、その選択肢を
一緒に並べるお手伝いをしています。






