人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン
まだパブリックコメントを受け付けている段階なので、正式決定ではありませんが、国土交通省より
【宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン(案)】というものが公表されています。
いわゆる告知事項についての取扱いルールの設定です。
コロナ禍で人の死が身近に感じる世の中になっていますが、この告知事項については今まで様々な角度から議論はされていました。
『1回人が住んだら告知義務はなくなる。』
『いや、10年ひと昔というので、10年経ったら告知義務はなくなるよ』
という話から、
『知っている限りは告知義務は続く』
法の解釈というか、ケースバイケースで日本各地で法廷で争われてきました。
これが、ガイドラインが登場し、一定のルールが定められるというのは、私たち宅建業者からするととてもありがたい話なのかもしれません。
早速その中身について検証していきたいと思います。
まず、冒頭の【本ガイドライン制定の背景】というところで、
心理的瑕疵が、買主・借主にとって不動産取引において契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があることから、売主・貸主は、把握している事実について、取引の相手側である買主・借主に対して告知する必要があり・・・と始まっており、宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法上、当該事案の存在について事実を告げる必要があると記載されています。
また次の【不動産取引における心理的瑕疵に掛かる課題】の中では、心理的瑕疵に該当する事案の存在が疑われる場合において、それが買主や借主に対して告知すべき事案に該当するか否かが明確でなく、告知の要否、告知の内容についての判断が困難なケースがある。(ガイドライン本文より抜粋)
その判断基準を明確にしようというのが今回の狙いということが分かってきます。
もう一つ、売主・貸主が把握している情報が買主・借主に適切に告げられるかは、宅地建物取引業者によるところが大きいと。。。。
ただ、私たち宅建業者が知り得る告知事項(心理的瑕疵)について、売主・貸主から聞いていて買主・借主に告げないというのは基本考え難い話です。
売主・貸主が伝えたくない気持ちは理解できます。
伝えることによって、安く売らなくてはいけない、安く貸さなくてはいけないという心理が働くからです。
でも、宅建業者とすれば知っているのに伝えない、その責任を一手に担うのはリスクが高すぎるからです。
この辺の解釈は見識者から見る宅建業者の像が垣間見えますよね。。
また、このガイドラインの取扱いについては以下の通りの記述があります。
宅地建物取引業者がこのガイドラインで示した対応を行わなかった場合、そのことだけをもって直ちに宅地建物取引業法違反となるものではないが、宅地建物取引業者の対応を巡ってトラブルとなった場合には、行政庁における監督に当たって、本ガイドラインが考慮されることとなる。(ガイドライン本文より抜粋)
ガイドラインに従わなかった場合でも、業法違反になるわけではないが、トラブルになった場合はガイドラインに基づき判断される。
こういう解釈ですね。
次に、【ガイドラインの対象となる不動産の範囲】
これに関しては。【居住用不動産】が対象となっています。
また、隣接住戸や前面道路など、取引の対象となる不動産以外において発生した事案については、本ガイドラインの対象外とするが、集合住宅の取引においては、買主・借主が居住の用に供する専有部分・貸室に加え、買主・借主が日常的に通常使用する必要があり、集合住宅内の当該場所において事案が生じていた場合において買主・借主の住み心地の良さに影響を与えると考えられる部分をも対象に含むものとする。(ガイドライン本文より抜粋)
これを読むと、前面道路や隣接住戸は言わなくていい。
共同住宅の場合、廊下やエントランス、エレベーターなどは対象になる。
こういう解釈になるかと。
【告げるべき事案について】
(1)他殺、自死、事故死その他原因が明らかでない死亡が発生した場合
これについては、原則として告げるものとする。
また、対象となる不動産において、過去に原因が明らかでない死が生じた場合(例えば、事故死か自然死か明らかでない場合等)においても、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として、これを告げるものとする。(ガイドライン本文より抜粋)
と、結局過去の事案でも告知するように求めています。
(2)自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合
これについては、自宅における死因割合のうち、老衰や病死による死亡が9割を占める一般的なものであること、
買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性が低いものと考えられ、原則としてこれを告げる必要はないものとすると定めています。
この他、事故死に相当するものであっても、自宅の階段からの転落や、入浴中の転倒事故、食事中の誤嚥(ゴエン)など、日常生活の中で生じた不慮の事故による死については、そのような死が生じることは当然に予測されるものであり・・・(ガイドライン本文より抜粋)
という理由で、これを告げる必要はないものとすると定めています。
ただし、自然死や日常生活の中での不慮の死が発生した場合であっても、
過去に人が死亡し、長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、室内外に臭気・害虫等が発生し、いわゆる特殊清掃等が行われた場合においては、買主。借主が契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられるため、原則として告げるものとする。(ガイドライン本文より抜粋)
こう記載されています。
長期間放置は当然告知事項であったわけですが、今回この【いわゆる特殊清掃等が行われた】、この記述があることで一つの大きな目安が出来たような気がします。
では、長期間放置されたが冬などで臭気や害虫が発生しなかった場合、特殊清掃なしで対応可能であった場合はどうなるの?
というような疑問は少し残るものの、目安が出来たのは大きいですね。
調査について
(1)調査の対象・方法
宅建業者は、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行うべき業務上の一般的な義務を負っています。
ただ、前記に掲げる事案が発生したか否かを自発的に調査すべき義務までは宅地建物取引業法上は認められない。
と記述があります。
ただ、売主・貸主・管理業者から過去に事案が発生したことを知らされた場合、自らが事案が発生したことを認識した場合には、買主・借主に対してこれを告げなければならないとも定めています。
この辺の解釈は少しあいまいではありますが、
告知書(物件状況報告書)などで、過去に生じた事案についての記載を求めることにより通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする。
と書いてあるので、告知書の存在が重要になりそうです。
告知書の中で【不明である】や【回答がなかった場合】であっても、宅建業者に重大な過失がない限り照会を行った事実をもって調査はなされたと解するとも記載されています。
近隣住民等の第三者に対する調査や、インターネットサイトや過去の報道等に掲載されている事項に係る調査までは求められていないようです。
ただ、告知書への記載を要求することは必須ですね。
また、故意に告知しなかった場合等には、民事上の責任を問われる可能性がある旨をあらかじめ伝えることが望ましいという見解も示しています。
告知について
(1)賃貸借契約について
①告げるべき内容
事案の発生時期、場所及び死因(不明である場合はその旨)
②告げるべき範囲
事案の発生から概ね3年間は、借主に対してこれを告げるものとする。
その理由としては、東京地裁平成25年7月3日判決の、【自死等の後に第三者である別の賃借人が居住した事実によって希薄化すると考えられるとされている】事例、東京地裁平成19年8月10日判決の【賃貸住宅の貸室において自死が起きた後には、賃貸不可期間が1年、賃料に影響が出る期間が2年ある】と判断されている事例を挙げ、事案発生後の最初の入居者が退去した後には、通常の住戸として募集する運営が長らく行われているところである(ガイドライン本文より抜粋)
と記載されています。
この概ね3年間という取り決めはとても分かりやすく、明確です。
ただ、3年経てば風化するのかという疑念は抱きますが。。。。
また、人が死亡し、長期間放置されたことに伴い、特殊清掃等が行われた場合においても、前記同様概ね3年間は借主に告知するように求めています。
(2)売買契約について
①告げるべき内容
事案の発生時期、場所及び死因(不明である場合にはその旨)
②告げるべき範囲
調査を通じて判明した範囲で買主に対してこれを告げるものとする。
こちらは賃貸契約と違い、参照すべき判例や取引事例等が現時点においては十分に蓄積されていないとし、あいまいな記述になっています。
調査して分かってしまえば、いつまで経っても告知する必要があるというのが、今のところの解釈っぽいですよね。。
以上が、本ガイドラインを読んで多少分かりやすく説明した内容になります。
まだ、パブリックコメントを求めている段階なので、今後変更になる可能性は大いにあります。
また正式発表あれば、その内容も含めこのブログで解説します。
以上気になる不動産ニュースでした。